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設計指針－音楽室、リスニングルーム（１）、リスニングルーム（２）、ホームシアター
音楽室
コンサートホールが物語るように部屋と音楽は密接な関係にあります。この関係は
音楽室にも当てはまります。
◆ホールの逸話
音楽と部屋の関係の理解を深めるため、音楽家とホールについての逸話を少し
ご紹介します。
音楽アカデミーを活動拠点としていたフィラデルフィア管弦楽団のストコフスキーと
シンフォニーホールを拠点としていたボストン交響楽団クーセヴィッキーは互いに
自身のホールを最良と認識していました。残響時間の短い音楽アカデミーの特質を
カバーするためにストコフスキーや後に続くオーマンディは最後の音符を引き延ばす
指揮をしていました。かつては互いに引っ越し公演を行っていましたが、ホールと
演奏法が噛み合わなかったため聴衆の心をつかみきれず引っ越し公演は中止と
なりました。
ワーグナーに至っては自身の楽劇を演じるために独特の音響効果を
持つバイロイト祝祭劇場を設計しました。表現内容により最適な部屋が異なる例です。
海外で受けた感動を日本公演で得られない事は日常経験することですが、ホールの
音響特性が少なからぬ影響を及ぼしています。
◆ 音楽室の設計方針
音楽室では残響時間と音の拡散が重要な項目となります。
幾何音響設計が成立する周波数帯域での定常状態音圧レベルは室容積に
反比例し残響時間に比例します。ウィーン楽友教会大ホールを基準とした場合、
一般家庭の音楽室では５倍程度の音圧レベルとなりますので耳の保護に注意
します。
ピアノなど床と接触する楽器を使う場合は固体音の伝搬が起こります
のでこれを遮断する浮き床構造の遮音設計を行います。
１：音楽室の残響時間
演奏者の好みで左右されます。音大生向けの部屋では音を聞き分け易くする
ために少し短めに設定します。管楽器や声楽はピアノに比べ音の減衰が早い
ので残響時間を長めに設定します。ドラムのようなタイトな音を必要とする部屋
では短めの残響時間で低音域でも残響時間が長くならないようにします。
クラシック音楽では長めに、ポピュラー音楽では短めの残響時間に設定します。
音楽室の残響時間の目安は100立方メートルの室容積で短めで0.2秒、中庸で
0.4秒、長めでは0.6秒程度です。
２：音楽室の音の拡散
部屋全体に音が拡散するような形状とし、フラッタ、エコーが生じないようにしま
す。具体的には壁面を傾斜させたり拡散体を設置したりします。音楽室の壁面
傾斜はリスニングルームの壁面傾斜と異なり音の拡散が目的ですから波形の
傾斜とします。家具なども音の拡散板として作用しますから部屋に入る物を予め
調査します。
４：音楽室の遮音計画
多くの場合、演奏中に室から漏れる音が問題となります。特に、ピアノ練習室
からの音漏れは身近な問題です。楽音は空調騒音などの無相関な騒音と違い
意味がある騒音なので同じレベルの音でも意識し易く、耳障りになります。
遮音量は演奏の対象となる周波数帯域で周囲の部屋や屋外への音漏れが
仕様内に納まるように設定します。
周囲の部屋への漏洩は下記の通りですが、楽音は有意音なので、できれば
この値より5下げたいものです。
寝室 ： NC30以下
居室 ： NC30～35
台所、バス ： NC40～45
屋外への漏洩は下記国の定める環境基準を満たすこと
AA地区夜間（とくに静穏を要する地区）実効値時間平均40dB（A）
A地区夜間（主に住居に供される地区）実効値時間平均45dB（A）
音楽練習室内への侵入騒音
通常の練習 ：NC30以下 （出来れば20程度）
レコーディング時 ：NC15以下
５：各種楽器の音量を下記に示します。これを元に遮音計画を立案します。
・特に125Hz以下で大音量を発生する楽器
ティンパニ（120dB）、バスドラム（110dB）、ピアノ（105dB）、チェロ（100dB）など
・250Hz以上で大音量を発生する楽器
フレンチホルン（120dB弱）、トランペット（115dB）など
・その他の管楽器、弦楽器は110dB程度、声楽で100dB程度です。
・パイプオルガン、電子楽器は個別の調査が必要です。
◆
窓
リスニングルームやホームシアターと異なり、音楽室には音楽を気持ち良く
紡ぎ出す環境が必要です。音と部屋のページにも書きましたが季節のうつろい、
一日の変化や天候などが感じられるように窓の設置を強くお勧めします。